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東京地方裁判所 平成6年(ワ)18512号 判決 1995年10月17日

本訴事件原告・反訴事件被告

佐藤純

本訴事件被告・反訴事件原告

飯島君代

主文

一  被告は、原告に対し、金八〇万九〇七九円及びこれに対する平成六年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は、被告に対し、金九万一九六八円及びこれに対する平成六年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の本訴請求及び被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを五分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  原告(本訴請求)

(一)  被告は、原告に対し、一二六万九五〇五円及びこれに対する平成六年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

二  被告(反訴請求)

(一)  原告は、被告に対し、四四万七八七三円及びこれに対する平成六年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用の原告の負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、信号機により交通整理の行われていない交差点内において、原告が運転する普通乗用自動車と、被告が運転する普通乗用自動車とが出合頭に衝突する交通事故が発生したことから、双方が相手方に対し、損害(物損)の賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実

本件交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

事故の日時 平成六年三月一三日午後二時三五分ころ

事故の場所 東京都足立区江北六丁目二〇番先路上(別紙現場見取図参照、以下、同交差点を「本件交差点」といい、同図面を「別紙図面」という。)

原告車両 足立五三り五〇七二

被告車両 足立三三と三三〇二

事故の態様 原告が原告車両を運転し、本件交差点に差し掛かつたところ、被告が被告車両を運転し、同交差点を右折しようとして、本件交差点内に進入したため、原告車両の左前部と被告車両の右前部とが衝突した。事故の詳細については当事者間に争いがある。

三  本件の争点

1  原告、被告双方の過失の有無及びその割合(過失相殺)

(一) 原告の主張

(1) 被告は、優先道路に進入するに当たつては、左右を注視し、優先道路上の車両の進行を妨げてはならない注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、右方の安全を確認しないまま、漫然本件交差点内に進入した過失により、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(2) 原告は、車両の流れに乗つて走行してきたものであり、原告進行道路は優先道路であることに加えて、被告車両は、右方の安全を確認しないまま、駐車車両の陰から突然飛び出してきたものであり、被告の過失は、九〇パーセントを下らない。

(二) 被告の主張

(1) 原告は、道路を進行するに当たつては、前方を注視し、制限速度を遵守して安全な速度で進行しなければならない注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、前方の安全を確認しないまま、制限速度を超過する速度で進行した過失により、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、被告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(2) 被告は、本件交差点に進入するに当たり、進路右側角に駐車車両があり、右方の見通しがよくなかつたため、走行車両の有無を確認すべく、右方が確認できる地点まで前進してウインカーを点滅させながら、ゆつくりと進行したところ、右方から原告車両が制限速度を大幅に上回る猛スピードで進行してきたため、本件事故が発生したものである。

原告進行道路の両側には、パーキングエリアが設置され、事故当時も多数の駐車車両があり、原告進行道路は優先道路には当たらない。原告には、少なくとも、六〇パーセントの過失がある。

2  損害額

(一) 原告

(1) 修理費用 八六万九五〇五円

(2) 評価損 二五万〇〇〇〇円

原告車両は、人気車種であるところ、本件事故により、中古車市場における価格が下落し、さらに損傷がラジエーター等動力系統に直結する部分にまで及んでいるため、修理を行つただけでは償えないような不備が残ることが予想されるから、評価損は、右金額が相当である。

(3) 弁護士費用 一五万〇〇〇〇円

(二) 被告

(1) 修理費用 五四万六四五六円

(2) 弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円

第三争点に対する判断

一  本件事故態様について

甲二、三、五ないし八、乙二、四、六の1ないし4、一二、一三の1、2、原告、被告に前記争いのない事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場の状況は、別紙図面のとおりである。

本件交差点は、皿沼方面から環七通り方面に向かう南北の直線道路(以下「本件道路」という。)と、尾久橋通り方面から本件道路に接する東西の中央線のない直線道路(以下「交差道路」という。)とが交差する、信号機により交通整理の行われていない交差点である。

本件道路は、片側二車線、幅員一一メートル(片側五・五メートル)の直線道路であり、路面はアスファルトで舗装され、平坦で乾燥しており、道路規制は、最高速度が時速四〇キロメートルに制限されている。

交差道路は、車道幅三・六メートル(両側に一・一メートルの路側帯が設けられている。)の直線道路であり、路面はアスフアルトで舗装され、平坦で乾燥しており、道路規制は、最高速度が時速三〇キロメートルに制限されているほか、一時停止規制がされており、本件道路に進入する手前には、停止線及び一時停止標識が設置されている。

本件道路の見通しは、原告進行方向については、前方は良好であるが、左方は別紙図面の甲地点に駐車していた車両のため、不良であり、交差道路については、前方は良好であるが、右方は右車両のため、不良であつた。

本件事故現場には、原告進行方向の第二車線の路面上に北から南へ向かい、右前二〇・六メートル、左前二〇・七メートルのスリツプ痕が二条印象されていた。

2  原告は、本件道路をそれまでに何度か通行したことがあり、速度規制については知らなかつたが、道路の状況については知つており、本件事故当時、友人ら三人を同乗させて町屋まで品物を納入しに行く途中であつた。

原告は、原告車両を運転し、本件交差点の一五〇から二〇〇メートル手前の信号機の赤信号で先頭で停止した後、青信号で発進し、本件道路を本件交差点まで止まらずに、第二車線を時速約六〇ないし七〇キロメートルで進行中、別紙図面のア地点で進路前方の信号機が青色であるのを確認して、そのままの速度で進行したところ、同図面のイ地点において、前方約三七・七メートルの同図面の<1>地点に、被告車両が左方の交差道路からゆつくりとした速度で出てきたのを発見し、停止する様子もなかつたことから、同図面のウ地点において、急ブレーキを掛けたが、同図面のエ地点の、×地点において、原告車両の前部バンパーと被告車両の前部右角付近とが衝突し、原告車両は、同図面のオ地点において、停車した。

なお、本件事故当時、本件道路の第一車線には駐車車両が多く、本件道路を走行する車両は、すべて第二車線を走行していた。

原告は、本人尋問において、原告車両の速度は、五〇キロメートル程度であり、また、周囲の車両の流れに乗つて走行していたと述べるが、原告車両のスリツプ痕の長さが左二〇・七メートルであることからすると、原告車両の速度は、少なくとも時速六〇キロメートル以上であつたものと認められるうえ(スリツプ痕の長さから制動初速度を算出する公式を用い、制動痕の長さを二〇・七、摩擦係数μを路面が乾燥した場合の代表的数値〇・七として計算すると、その結果は、時速約六一・二六キロメートルとなるから、衝突による運動エネルギー消失の点をも考えると、原告車両の速度は、概ね右数値以上であつたことが窺われる。)、原告は、本件交差点手前の信号から本件交差点まで、先頭で進行してきていたことからすると(なお、第一車線を走行する車両はなかつた。)、原告の車両速度に関する供述は、たやすく措信できない。

3  被告は、本件道路をよく通行して、道路の状況については知つていたが、本件事故当時、尾久橋通り方面から帰宅するため、被告車両を運転し、時速約一五キロメートルで進行中、本件交差点に差し掛かり、別紙図面の<1>’地点において一旦停止し、前方及び右方を見たが、右方は駐車車両のため、確認できなかつた。そして、右に少しハンドルを切りながら前進し、同図面の<2>’地点において左方を見ると、信号機が青色を表示しており、その後、時速約五キロメートルで約二メートル進行した同図面の<3>’地点において、再度、右方を見たところ、原告車両が被告車両の約一六・七メートル右方の同図面のア地点に相当な速度で進行してきたのを認め、直ちにブレーキを掛けたが、同図面の<4>’地点の、第二車線内センターライン寄りの付近×地点において、原告車両と衝突した。被告車両はその際の衝撃により押し出されて、同図面の<5>’地点で停止した。

4  右の事実をもとにすると、信号機により交通整理の行われていない交差点内における自動車同士の本件出会頭事故において、被告は、優先道路を通行する直進車の進行を妨げてはならない基本的義務があることに加えて、被告としては、右方の見通しがきかなかつたのであるから、第一車線内で停止し、右方安全確認の実質を果たしたうえでなければ、それ以上、本件交差点内に進入すべきでないというべきところ(駐車車両の停止位置及び被告車両の運転席の位置に照らすと、被告は、第二車線にまで進入しなくても、第一車線内において、右方の安全を確認できる位置に停車することは可能である。)、これを怠り、漫然進行した過失により、本件事故を引き起こしたというべきであるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき主要な責任がある(なお、被告は、本件道路の両側には、パーキングエリアが設置されており、事故当時も多数の駐車車両があつたから、本件道路の交差道路に対する優先性は低く、本件道路は優先道路に当たらないというのであるが、右のような事情が道路交通法の優先関係を左右するものとはいえないから、被告の右主張は、採用できない。)。

他方、原告としても、前方左右を注視し、制限速度を尊守するとともに、道路等の状況に応じて、他人に危害を及ぼさないような速度で車両を運転しなければならない義務が存するところ、左方から進入する車両の存在を考慮せず、制限速度を二〇キロメートル以上も上回る速度で原告車両を運転した結果、本件事故に至つたのであるから、この点に過失があり、民法七〇九条に基づき、被告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

5  そして、原告、被告双方の右過失を対比すると、両者の過失割合は、原告一五、被告八五とするのが相当である。

二  損害額について

1  原告

(一) 修理費用 八六万九五〇五円

甲三、四、原告によれば、右のとおり認められる。

(二) 評価損 認められない。

甲三、四によれば、原告車両は、平成五年新車で購入され、同年一月二六日初度登録されたニツサンシルビアであり、本件事故当時、車両時価が一八四万五〇〇〇円、走行距離が一万五〇六二キロメートルであつたところ、本件事故によりバンパー、ボンネツト、フエンダーが凹損する等、主として、車体左前部が損傷したため、ラジエーター部分を交換したほか、フエンダー脱着交換、塗装等により、右(一)記載の修理費用を要したことが認められるが、右修理によつては回復しがたい機能上及び外観上の損傷が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、他に査定減価を認めるに足りる証拠もないから、評価損は認められない。

(三) 過失相殺

前記一5記載の過失割合により、原告の損害額の一五パーセントを減額すると、被告が原告に対して賠償すべき損害額は、七三万九〇七九円(一円未満切捨て)となる。

(四) 弁護士費用 七万〇〇〇〇円

本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は、七万円と認めるのが相当である。

(五) 認容額 八〇万九〇七九円

2  被告

(一) 修理費用 五四万六四五六円

乙一一によれば、右のとおり認められる。

(二) 過失相殺

前記一5記載の過失割合に従い、被告の損害額の八五パーセントを減額すると、原告が被告に対して賠償すべき損害額は、八万一九六八円(一円未満切捨て)となる。

(三) 弁護士費用 一万〇〇〇〇円

本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は、一万円と認めるのが相当である。

(四) 認容額 九万一九六八円

第四結語

以上によれば、原告の本訴請求は、八〇万九〇七九円及びこれに対する本件事故の日である平成六年三月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を認める限度で、被告の反訴請求は、九万一九六八円及びこれに対する本件事故の日である平成六年三月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を認める限度でそれぞれ理由があるから、これらを認容し、原告のその余の本訴請求及び被告のその余の反訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

現場見取図

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